障害年金の再審査請求で認められる確率はどれくらいあるのか。
決定が覆る可能性(認められる確率)はどのくらいなのか。
このような疑問に、わかりやすくお答えします。
はじめまして。
東京の障害年金専門社労士の但田美奈子(ただみなこ)と申します。
東京日本橋で13年以上にわたり、累計3,600件以上の「障害年金申請の相談」に応じてきました。
再審査請求で認められる確率や、裁決例などをお話しします。
※誠に申し訳ございませんが、現在(2023年1月~)ご依頼多数につき(再)審査請求からの新規ご相談・依頼はお受けできない状況です。
障害年金の再審査請求
障害年金の不服申し立てには、審査請求と再審査請求があります(裁判も可能ですが)。
要するに「行われた処分に納得できない=障害年金が認められないか、等級が低い」場合に行うものです。
まず、審査請求を行いそれでも認められないとき再審査請求(厚生労働省の社会保険審査会へ請求)を行います。
障害年金の審査請求における手続きと認められる確率とは
少し固い話しですが、不服申し立ては行政不服審査法という法律に規定されており、50年間もずっと改正されていなかったのです。
しかし、平成28年4月1日に大幅な改正がありました。
審査請求できる期間が3か月(以前は60日)になったことや、再審査請求をせずに裁判ができるようになったことなどがあります。
改正前は、裁判前に再審査請求をまず行う必要がある。不服申し立て前置主義でした。
再審査請求が認められる確率
とは言っても、いきなり裁判する方はほとんどいないので(料金もかかりますし、弁護士さんがいないとまず無理です)、再審査請求(不服申し立て)をするのが現実的です。
以下、総務省「平成26年度における行政不服審査法等の施行状況に関する調査結果」より図を抜粋します。
国の社会保険のところをご覧いただくと件数は63,683件になります。
ちなみに、これはいろいろな法律の審査請求の件数となります。
年金は、厚生労働省が発表している社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移となります。
年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移
健康保険、障害年金、老齢年金などの件数(社会保険審査会 年度別:再審査請求受付・裁決件数等の推移)によると。
受付件数(繰越除く、新規のみ)
平成26年 | 2,163件 |
平成27年 | 2,149件 |
平成28年 | 2,011件 |
平成29年 | 1,459件 |
平成30年 | 1,627件 |
令和元年 | 1,718件 |
令和2年 | 1,297件 |
障害年金のみですと、以下になります。
平成26年 | 1,545件 |
平成27年 | 1,607件 |
平成28年 | 1,382件 |
平成29年 | 1,112件 |
平成30年 | 1,250件 |
令和元年 | 1,392件 |
令和2年 | 998件 |
さて、実際に認められている件数です。
裁決が終わったものから、容認されたものや容認されたため取下げたものの合計で計算します。
平成26年 | 452/2,003件(22.5%) |
平成27年 | 463/2,056件(22.5%) |
平成28年 | 322/2,161件(14.9%) |
平成29年 | 229/1,847件(12.39%) |
平成30年 | 204/1,480件(13.78%) |
令和元年 | 262/1,392件(18.82%) |
令和2年 | 246/ 998件(24.65%) |
つまり、平成28年以降は2割弱程度しか認められない状況です。
社会保険審査会のメンバーが変わった平成28年度から容認件数と原処分変更のどちらも、顕著に減っているのがわかります。
決定に納得されなくて、不服申し立てしたものの中で15%であり、そもそも初診日の証明ができていない場合や、納付要件が駄目な場合、不服申し立て自体をしていないと思います。
つまり、全請求件数からすると認められたのは数%程度です。
これを高いと見るか低いと見るかはその方によりわかれると思いますが、障害年金は最初の請求がキモであり、(再)審査請求などになると、かなり厳しいというのがお分かりだと思います。
口頭意見陳述における質問権や意見聴取
改正された内容の中で、口頭意見陳述における質問権の導入という項目ができ、口頭意見陳述に際し、原処分庁(つまり厚労省)に質問をすることができるようになったのです。
また、同じく審理手続の申立てに関する意見聴取もできるようになりました。
事件が複雑な場合、あらかじめ担当審判官があらかじめ審理手続の申立てに関する意見の聴取を行うことができるというもの。
地方の意見陳述では一度も出席なし
しかし、平成29年3月1日地方での意見陳述に厚労省側が一度も出席していないとの報道がありました。
引用:共同通信、京都新聞等 2017/3/1付け
年金不服申し立て、骨抜き 厚労省審理に出席ゼロ
年金など社会保険に関する決定に不服申し立てができる制度で、申立人が審理の場で意見陳述する際は国側も呼ぶことが昨年4月の法改正で定められたのに、厚生労働省が人手不足を理由に地方での審理に全く出席していないことが1日、分かった。社労士や弁護士らでつくる団体からの改善要請を受け、明らかにした。申立人が国に質問できるようにするという法改正の目的を骨抜きにしている形で、厚労省は不適切だったことを認めて「4月からはテレビ電話などで出席するようにしたい」としている。
今回の改正点の目標は以下の3つになるのです。
- 公正性の向上
- 使いやすさの向上
- 国民の救済手段の充実・拡大
せっかくいい方向に改正されたのですから、何とか少しでもよい方向の運用になっていくように努力したいと思います。
社会保険審査会による再審査請求の裁決例
厚生労働省ホームページに、社会保険審査会による再審査請求の裁決例(平成28・29年度分が追加)が掲載されました。
掲載されている事例の数をまとめてみました。
障害年金関係が一番多く掲載されています。
なお、わかりずらいのですが、棄却と却下に関して以下の違いがあります。
棄却 申立てを理由がないとして、また法に合わないとして、無効の言渡しをすること。
却下 申立てや提案などをそもそも受け付けないこと。
法的には違いますが、駄目という意味では同じなので、表現の違いというくらいでご理解ください。
裁決例と内訳
次に再審査請求の裁決例の掲載数を計算してみました。
上が平成27年。下が28.29年の数値です。
【健康保険】
・傷病手当金
6事例(容認3・棄却3)
3事例(容認2・棄却1)
・療養費
6事例(容認1・棄却5)
11事例(容認8・棄却3)
・被保険者資格・標準報酬
2事例(容認2)
1事例(容認1)
【厚生年金保険】
・老齢給付
5事例(容認2・棄却3)
3事例(棄却3)
・障害給付
37事例(容認11・一部容認8・棄却17・却下1)
16事例(容認14・一部容認3・棄却2)
・遺族給付
10事例(容認7・棄却3)
9事例(容認6・棄却3)
・被保険者資格・標準報酬
2事例(棄却3)
5事例(容認2・棄却3)
・その他
2事例(容認2)
8事例(容認5・棄却3)
【健康保険・厚生年金保険共通】
・保険料
1事例(棄却1)
3事例(棄却2・却下1)
【国民年金】
・障害給付
24事例(容認11・棄却13)
6事例(容認2・棄却4)
・遺族給付
2事例(容認1・棄却1)
・保険料
1事例(容認1)
1事例(容認1)
・その他
3事例(容認1・棄却2)
3事例(容認1・棄却2)
これは掲載数というだけで、裁決の実数ではありません。
件数でいうと容認と棄却で同じくらいの件数を載せていますが・・・実際は棄却が数倍あるのに、落ちたものはあまり掲載しないという感じではあります。
しかし、こういったものをある程度、情報公開するようになってきたのは大事なことです。
ある程度審査の方向性というか、考え方のいったんをみることはできますので。
社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移
引用元: 厚生労働省社会保険審査会 年度別(再)審査請求受付・裁決件数等の推移
社会保険審査会 年度別・制度別(再)審査請求受付状況
引用元: 厚生労働省社会保険審査会 年度別・制度別(再)審査請求受付状況
裁決例一覧
引用元: 裁決例一覧
社会保険審査会は、健康保険、船員保険、厚生年金保険及び国民年金の給付等処分に関して、第2審として行政不服審査を行う国の機関です。
引用元: 社会保険審査会